電車の中で。

 

「久し振り」

蓉子の笑顔。

 

佐藤さんブームも人心地ついて、そろそろお互いの大学にもなれてきた頃。

聖と蓉子は、久し振りに会おう、ということになった。

お互いに会いたくないわけではなかったが、これまでリリアンで学校に行けば会える生活が

続いていたその延長上で、改めて会おうとお互い言い出せずにいたというのが本音かもしれない。

「聖、久し振り」

「蓉子も、ちょっと老けたね」

「…相変わらずね」

待ち合わせをして、電車に乗る。

 

車内はいつものように混んでいた。

蓉子はドアのそばに立ち、つり革を持っている。

聖はなんとなく立ったまま。

「おっと」

電車が揺れる。

聖は、あわてて蓉子の肩に触れた。

ぬくもりが伝わる。

正直、聖はどきんとした。

ブラウス越しに感じる、蓉子の体温。体温を持った、蓉子の体。

そのまま、軽く触れたままのフリをしながら、もう少しだけゆっくりと触れる。

蓉子と目が合った。

何か言いたげにしている、と聖は思った。

濡れた瞳が聖を誘っているような気もした。

 

このまま、抱きしめられたらいいのに。

 

いいようのない、押さえようのない衝動。

今すぐにさらってしまえればどれほど幸せか。

今すぐにさらわれてしまえばどれほど幸せか。

しかしそれは一瞬の出来事。

二人だけが知る、秘め事。

 

聖はゆっくりと手を離した。

その代わり、もう半歩だけ蓉子に近付いた。蓉子も、半歩。

心の距離が一歩近付いた瞬間。

電車は何も知らずに、ドラマと気持ちを内包し、走っていく。

 

 

おわり。


おまけ語り。

久し振りに書いてみました。

どうも、私の書く聖は思った以上に自分が蓉子を好きなことにビックリしていて、

蓉子は聖はどれほど好きでいてくれているだろうと悩んでいるようです。

ああ、擦れ違い。

だからこそ切なくて、いいとおもうんですが。

高校からそのまま他大学に進んだ二人は、これからどうなっていくんでしょう。

そのへんも、描いて行けたらいいなと思っています。

ご意見ご感想下さると大変うれしいです。

それではまた。

 

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