人が行き交う街の中で君が僕に言った。(タイトル)
最近、彼女を抱く夢ばかりを見るようになった。
欲求不満だろうか?
そして気付いた。
夢は、ほんの少し不幸な方がいい。
目が覚めて、現実に近い幸せな、しかし決してかなわないだろう幸せな夢だと自覚するのは、
あまりにも、空しい事だ。
いつの間にか悩んでいたのが顔に出ていたらしい。
「聖?どうしたの?」
「え?」
静かな、蓉子の部屋。本人と同じく整然と片付けられている。
まるで蓉子そのものみたいに。
「何か悩んでるみたいだけど」
「いや……何でもないよ」
そう、たいしたことではない。
ただ、現実に期待してしまう自分に嫌気が差し、幸せな夢を思い出すのが嫌なだけ。
求めなければ傷つく事も無い。
……得られる事も、無いか。
「蓉子の顔が綺麗だったから見とれちゃった」
「……あ、そう」
蓉子はしっかりごまかしに気付いていた。
彼女は器用だ。
私は欲しいものを求めずにはいられない。
でも求めて傷つく事も極端に怖い。
『大切なものが出来たら、一歩引きなさい』
お姉さま、
大切なものが一歩踏み出さなければ手に入らないとしたら、どうすればいいのでしょうか?
好きになると言う事は意識する事だと思う。
気が付いてみると、私は蓉子の白いうなじに目を奪われていた。
吸い込まれそうだ。あそこに思い切り唇を寄せる事が出来たら、どんな気持ちがするだろう。
彼女自身はどんな味がするだろう。
「聖、何か言いたい事があるなら、聞くけど?」
「いや……」
蓉子は聖の視線の意味に気付いていた。
そして聖が自分の気持ちをどう処理したら良いか迷っていることも分かっていた。
蓉子の気持ちは決まっている。
しかし、知っているだけ、蓉子は自分から一歩を踏み出す事は出来なかった。
ある連続殺人犯に曰く、
『鍵がかかってるって事は、入るなって事なんですよ』
実際、彼は鍵のかかっている家に侵入したりはしなかった。
聖が躊躇すると言う事は、何かしら彼女の心に戸惑う何かがあるということなのだ。
誤魔化すように時間は過ぎていく。
他愛ない話を繰り返し、しかし私の中の欲望はとどまる所を知らない。
簡単な言葉だが、今の自分の内情はこれに尽きた。
参った。
何故戸惑うのだろう。
記憶が目前をよぎる。
夕暮れ、お互いの影しか見えなさそうな薔薇の館で。
私は、努めて明るく言葉を発した。
『私さ、蓉子が好きなんだ』
蓉子の影が一瞬揺れた気がした。
『私も好きよ、聖』
今にして思えば、蓉子はちょっと戸惑っていたのだと思う。
それから何の進展も無いまま。
私達はとんでもなく仲の良い友人のような、関係のまま。
私は怖かったのだろう。
二人でぼーっと本を読み出してから30分ほど時間が経った。
「ちょっとお茶入れてくるわ」
蓉子が立ち上がる。
と、蓉子が体勢を崩した。私の足に躓いたのだ。
「ごめ――」
慌てて受け止めようとする私と、蓉子が、まるで抱き合うように倒れこむ。
フローリングの床に、髪が広がるのが分かった。
蓉子は私の腕の中にいる。怪我はなさそうだった。
蓉子の髪の匂いが私の鼻先を掠め、くらくらした。
ごめん、と言って立ち上がろうとする蓉子を反射的に抱きしめる。
特に何の抵抗も無い。私の胸に頭を預ける形で、蓉子は抱きしめられている。
暖かい、柔らかい感触。
これほどまでに胸のふくらみを意識したのは初めてかもしれない。
とても正直に、欲しい、と感じた。
どきどきするとかそんなぼんやりした感情ではなく、もっとはっきり『欲しい』と。
蓉子の頬に片手を寄せて、潤んだ瞳を見つけた。
その下にある、桃色のつややかな唇。
吸い込まれる。
私は自分の唇をそこにあわせようとして―――止めた。
”駄目だ”
怖いのだ、蓉子を失う事が。
全ての関係が壊れてしまう事が、怖いのだ。
自分を引き剥がすように距離を取ろうとした、そのとき。
蓉子と目が合った。
彼女はほんの少し笑っていたかもしれない。
「ちょっと、待ってたのに」
私の恐怖はそこで吹き飛び、
その風に乗ったまま私達は何度もキスを交わしていた。
『もし一歩踏み出さなければ手に入ることが無いのなら、
お互いに半歩、踏み出せばちょうど良いんじゃないかしら?』
お姉さまなら、そう言うかも知れないと思った。
おわり。
あとがき。(駄文)
久方ぶりにSSなど書いてみました。
今まで私が書いてきたのとちょっと性格が違うような気がするのは、気のせいです(おい)。
と言うのは嘘で、それなりに心境の変化があったからです。
唐突に終わっていますが、まぁ、後は想像にお任せすると言うか。
基本的に、百合は諸刃の剣だと思っているんですが、どうでしょう。
「何いってんのかわかんねぇよ」と思われた方、ぜひメールください。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
感想意見批判激励等いただけると、神月は大変喜びます。どうぞよろしくお願いします。
それではまた。
20010507 神月