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『パラソルをさして』発売記念SS(ネタバレなし・しかもナゼか白紅)

あの雲の向こうには

 

あなたは遠いところにいるのだと思っていた

言うなれば あの雲の向こうに 夜の向こうに

私の世界は あなたまでとどかない

あなたは 近付けば遠ざかるまぼろし――――

 

 

雨が降っていた。

隣りを歩く聖に話し掛けることすら酷く億劫な気がする。

傘からかばんにこぼれた水滴をぬぐって、蓉子は眉をしかめた。

「傘が小さいんだよ」

大きな紳士物の傘を悠々と持って、聖は肩をすくめる。

「……そうね」

そのとおりだわ、と蓉子は返事をするでもなく繰り返し呟いた。

蓉子の傘はそんなに大きくはない。だが、女性ものの、標準のサイズである。

それでも今は横から前から後ろから、雨がまいこんでくる。

蓉子はちらりと聖の傘を見ると、ふっと息を吐いた。

二人くらいなら何とか入れそうな傘だ。

 

今のこの二人だけの世界でも、傘の向こうには広い世界が待っている。

世界は狭いと言うものもいるだろう、だが蓉子はそうは思わない。

確かに世界は狭い事もあるだろう。

だが、二人でいるにはあまりにも広い。

流されて手を離さないように必死にならなければ、日々のお互いの暮らしで相手を忘れてしまいそうなくらいに。

蓉子には聖の空の向こうに広がる世界を図り知ることが出来ない。

その実体を見ることが出来ない。

だから不安になる。

大学に入って加速度的に広がる聖の向こう側にむかう事が、蓉子には出来ないから。

『あなたは、いつも何をしているのですか』

『何を思っていますか』

『私を、すこしでも思い出してくれていますか』

『いつまでもあなたを思いつづける私は愚かですか』

『……あなたも、私を好きでいてくれていますか』

 

雲の向こうを見ることが出来ない地上の人々は

ただ空を見上げて、雲の向こうの青さを思う。

”あの空はいつもそこにある。いつも青さを保っている。”

誰もがそう思って。

 

でも実は、空は我々が”青い”と思うから青いのかもしれない。

実は、空も地上の人々を思い見つめているのかもしれない。

 

言わなくても伝わるなんて事は嘘。

言わなければ伝わらない事ばかり。

ただ言葉にしてしまうと、

あまりに陳腐なものになってしまう気持ちが多いだけ。

 

「蓉子、相合い傘しよっか?」

 

 

おわり。


あとがき。

『パラソルをさして』はちょっと離れかけていた神月の心をわし掴みにしました。

今回は旧三薔薇さまが卒業してから久し振りに読んでて楽しい感じがしました。

今後新刊ネタで更新をやっていきたいと思います。

そんなわけで、まずはネタバレのない白紅を書いてみました。

新刊を読む前に読んでもいいですし、読んだ後にこちらをよんでもよいです。

「ああ、そっかあ」と納得いただけたら幸いです。

 

20020704  神月

 

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